五感情報通信技術に関する調査研究会(第2回) 議事要旨
1日 時:平成12年12月11日(月) 14:00~17:00 2 2 場 所:郵政省飯倉分館 F会議室(2F)
3 出席者(順不同、敬称略)
座 長:廣瀬(東京大)
構成員:阿部(東京大)、
池井(都立科技大)、
池口(アーニスサウンドテクノロジーズ)、
片桐(ATR)、
小宮(資生堂)、
阪田(NEC)、
澤野(高砂香料)、
土井(東芝)、
鳥居(味の素)、
中山(CRL)、
西条(富山医科薬科大:代理 堀)、
平原(NTT)、
広田(東京大)、
畚野(SCAT:代理 藤本)、
森泉(東工大)、安田(東京大)
事務局:
島田課長補佐、
瀬戸下係長、
小川(技術政策課)
4 配布資料
資料2-1 五感情報通信技術に関する調査研究会(第1回会合)議事要旨(案)
資料2-2 五感情報通信技術のイメージ
資料2-3 五感情報通信技術の現状
資料2-4 今後の審議実施スケジュール(案)
資料2-5 インターネットとマルチメディア情報通信
参考資料
五感情報通信技術の研究・技術動向
5 議事の概要 (1) 開会 (2) 議事 ① 前回議事要旨の確認について
事務局より資料2-1に基づき説明。 ② 自己紹介
前回会合を欠席された構成員より自己紹介があった ③ 五感情報通信の研究・技術動向について(その2)
ア 阪田構成員から、資料2-5に基づき、「インターネットとマルチメディア情 報通信」についてプレゼンテーションがあった。
【主な質疑応答】
安田構成員: 五感通信の場合に必要になるのは基本的にはタイミング型が多いよう に思う。IP上では遅延が問題になると思うがその点をどう解決できると考えているか。
阪田構成員: トラヒックが予測できない限り、帯域保証は難しい。保証をどこまで 可能にしていくかにつきる。大規模なネットワークで帯域を保証するとなると、当面は優先的に制御するしかない。この方法としてプレミアムサービスや、幾つかのランクのグレードサービスを、キャリアやISPとユーザとの契約の元に提供していこうという話になっており、国際的に約束事を決めているところ。プレミアムサービスは、その時に各キャリアが確保できる最大限の帯域・リソースを保証するものであり、要求されるリソースをプレミアムサービスという形で提供可能かどうかを通信が始まるときに利用者に保証するものである。
安田構成員(青木助手): ① 帯域予約に近いことを指向するならATMでもよいのでは。② 五感通信で必要なセル廃棄率や遅延というのはどの程度と考えられているのか。
阪田構成員: ① トラヒックが音声・ビデオの比重が高ければATMの方が技術的に勝る がコストが非常に高い。しかしエンドユーザの現在のニーズは、音声・ビデオよりデータのほうが圧倒的に高い。ATMベースの電話局スタイルのネットワークよりもIPベースのルータでつくるネットワークの方が百分の一のコストでできるという議論もあった。
技術的には動画・音声ならATMが勝るが、データの要求も強いしコストも安いとなるとインターネットも捨てられない。インターネットを捨てるか捨てないかという話になると思うが、インターネットを捨てられないとなると、インターネットと共存できないATMは無駄になるということになる。② ある感覚の全てを網羅するのにどれくらいの情報量が必要なのかにつきる。それはより繊細なものを求めるのかそうでないかという要求毎によっても違ってくると思う。
土井構成員: VRのように臨場感大容量のデータを送るものもあれば、一方で匂いのように、容量としては小さいがある瞬間だけ送ってその後消えてしまうような微分的な情報も送らないといけない。今までは積分値的に送るものが主だったが、五感通信では、積分・微分の両方の相反する要求のものを送らないといけないと思う。アプリケーションを作る立場からは、こういった特性を考慮したネットワークを考えて頂きたいと思う。
阪田構成員: トラヒックの特性が視覚聴覚と違う。味覚や嗅覚は恐らく急激なピークを持つ桁違いなバースト性があるトラヒックになるだろう。従来の物理的なフローをエミュレートした通信ネットワークの議論は通じないだろう。エンドエンドだけでなく途中のノードも相当頑張らないといけないかもしれない。これまでよりも遙かに難しいかもしれない。
澤野構成員: 匂いは揮発性分子、主としてC,H,Oでできてる。同じ分子式でも構造が 異なると違う匂いになる。匂い分子をどうやって通信で伝えていくのかを考え場合、匂いが無くともある受容体を刺激して匂いを脳に知覚させるといった方法が考えられるが、通信で行うには難しいのではないか。
阪田構成員: 私も詳細については分からないが、味覚嗅覚の伝送は、センサで物質 の構成比等をセンシングして、それをデジタル化して伝送し、味覚嗅覚を発生する装置で再生するというものだと考えている。
イ 池井構成員より、「触覚情報と通信」についてプレゼンテーションがあった。
【主な質疑応答】
広田構成員: 説明の中で、データベース型と遠隔操作型という分け方がされているのは触覚の通信という意味では重要。遠隔操作型は通信を介して制御のループが構成されているため不安定。データベース型は、モデルをローカルの計算機に持ってきてしまえば何とかなる。どちらが必要かは用途に応じて決めるというのがよいと思う。触覚通信というと握手が想像されるが、これは遠隔操作型である。
この実現のためには伝送遅れを減らすことが必要。ネットワークの遅れを減らすことに注目した研究があるのかという点に興味がある。触覚も他の感覚も、どの程度相手とのインタラクションがあるかということに着目し通信の方式を考えるべきだと思う。
池井構成員: 握手を例に取ると、現状では本当に相手の手として感じられるようなものを作るのはものすごく大変。現在ロボティクスの分野で行われている先端的研究の成果を利用できれば人工の手として実現できるかもしれない。一般的にはこのようなものの要望はあると思うが、完璧なものではなくとも自由度を落とすなどして装置を安く作らないと、現状ではなかなか実用化が難しいのではないか。
五感情報の目指すところを、いろいろなメディアが含まれた形で人間にとって豊かな情報を伝えるという視点とすれば、技術中心でなく一般的な要求から考えていくための枠組みを作っていくのも面白いと思う。
土井構成員: インターフェースを設計するとき、五感のうち触覚と味覚はデバイスが直接触れていなければならず、ディスプレイとの距離が0となる。これは制約としては厳しいと思う。大きなディスプレイやスピーカーを使うことにより多くの人と共有できるように、通信という観点で考えるときは複数の人と共有できる方が良いと思う。触覚ディスプレイとしてはそのような可能性があるのか。
池井構成員 対象次第ではあるいは可能かもしれないが、今のところ技術の方向と しては、より精密に表現するにはどうしたらよいのかというのが研究者の興味の 焦点になっている。手に限らなければ遊園地にあるようなもののように体感できるようなものはあるかもしれない。手に関して言えばきちんとコンピュータ制御されてるものとし てはほとんどない。
片桐構成員 視覚聴覚については、物理的な特性ではなく人間の知覚特性が関する 研究もある。例えば、聴覚なら何kHz以上は聞こえないとか色は3原色に分かれる といった視点がある。触覚についてはどうなっているか。
池井構成員 人間の触覚の仕組みがどうなっているかという研究は従来からある。 心理学的な面からの調査も行われている。皮膚感覚については、皮膚の受容器に は4種類ほどの機械的な変位をとらえるものがあり、非常にたくさん(1あたり100個程度)のセンサーが神経でまとめられて処理されて知覚される。神経のインパルスがどのように出るかと言うことも調査されている。色々なパターンが脳の中でどのような反応を示すのかについても部分的に調べられるようになっている。
しかし、あるものを表示したいときに、これら全部を追跡するのが非常に難しい。皮膚感覚についてはセンサが体全体に分布しておりまとまっていないことと、手を例にとると、手の姿勢や力のいれ具合によっても伝わってくるものが変わるので、一概に触覚の現象像だけを切り離して議論できるかは分からない。力覚についても、皮膚感覚と連動して指の表面、関節、筋肉の全てに関わってとらえられており、分けて議論するのが難しい。分けると非常に断片的になり対象物を正しく表現できるかどうか分からない。
片桐構成員 例えば聴覚については、耳の仕組みとは独立に、周波数といった特徴 で知覚が表現できるが、触覚ではどのような特性が効いてくるのか。どのような 特性で記述することが可能か。
池井構成員 それぞれの感覚器官がどこにあり何をしているのかはある程度分かっ ている。また、それぞれの器官を独立に刺激するとどういう感覚が生ずるかはある程度分かる。しかし記述する方法が確立されていない。どのパラメータに対してどの像かという関係ができないとと思う。
廣瀬座長 聴覚・視覚とは違い、触覚のディスプレイは一般化していないため、心理学とのつながりがあまりないのではないか。
④ 鳥居構成員より科学技術振興事業団の鳥居食情報調節プロジェクトについて説明。
【説明概要】
このプロジェクトでは、何が食べたいか、それをどれだけ食べたいかについて、脳がどう判断しているかを調べている。この仕組みはまだ分かっていないため、これを解明しようというものである。人間がもの食べるとき、タンパク質ならうまみのあるもの、電解質なら塩味のあるもの、エネルギーなら甘みのあるものを食べているおり、苦いもの酸っぱいものは基本的に食べない。食べたものは、神経を通じ約100msの速さで脳に伝えられ知覚される。
食べたものが予定通りの栄養を含んでいるかどうかは、消化吸収の過程で脳に伝えられる。脳では、ホルモン等を出してできるだけ食事によって脳の中の栄養状態が悪くならないように調整しており、このまま食べて続けていると異常が起こる判断するときは食べるのをやめたり吐いたりする。どれくらいの栄養が 得られたかどうかは消化吸収の過程で積算していって、予定していたものがどれくらい入ったかを脳が認知する仕組みになっている。
いままでの情報のデバイスでは、このように人間が行っている良い悪いの価値判断ができないのが問題ではないか。我々のプロジェクトでは、脳のどこがどう応答しているかをラットを用いMRIで測定している。さらに、電極を入れてどういう神経応答をしているかを測定したり脳内物質がどう出ているかについて調べている。
脳のどこがどう応答しているかが分からないと、好き・嫌い、快・不快が分からない。脳のどこにどういう刺激があればどういう働きをするのかを解明することが重要。最先端の脳の情報をうまく組み合わせて、それをデバイスにどう生かすかによっては面白い展開が期待できるのでは。
⑤ ディスカッション
ア 事務局より、資料2-2、2-3に基づき、五感情報通信技術のイメージ及び 五感情報通信技術の現状について説明。
イ 資料及びこれまでのプレゼンテーションについてディスカッションを行った。
廣瀬座長 視覚と味覚は、同列に論じるには距離がありすぎる感じがする。味覚につ いてはセンシング、伝送、再生いずれも考えられてないのでは。
鳥居構成員 味覚の場合には、味神経の情報を解析しようとしても神経情報はほとんど同じパターンになっており受け取る側に特異性がある。味覚だけの情報で全部決めるのは難しく、視覚等である程度補完され味を感じるという方法が良いかもしれない。
廣瀬座長 例えば視覚なら明るさ、色という質的なものがあるが、嗅覚には質というのがあるのか。白黒テレビは視覚の中の明るさだけを取り出してとりあえず実現したように、ある部分だけ区切れば実現可能なもあるかもしれないと考えている。匂 いでも白黒TV的なものができる可能性があるのか。
森泉構成員 非常に限定された切り口なら、質的なものは再生できると思う。何をも って質と言うかは議論があると思うが、匂いの分野では、分子の種類、匂いを与え るときの蒸気圧、濃度、トランジェントな状態が質に影響を与えると思う。いずれ にしても限定すれば可能だと思う。
澤野構成員 匂いには、香質や香りの強度という表現方法がある。香質は、グリーン な匂いがするとか、フルーティーな匂いがするとかいうもの。例えばグリーンな匂 いは、どういう化合物で構成されているかというのは大体分かる。匂いには、トップノート、ミドルノート、ベースノートと3つある。トップノートは、香りの第一 印象となるもので、ミドルノートは香りの中核をなすもの、ベースノートはさらにその後に残る香りでありそれぞれ香質が違う。
また、香りの強度については、例えば体臭の一つの成分はジャスミンにも入っており、同じ化合物でも強度によって匂いが変わってくる。匂いに対して脳波の一種を測定しているが、性差が現れる匂いもあれば、どちらにも影響を与えないものもある。個体差、性差や香りの質によって脳の受け方が違う。
廣瀬座長 脳内での匂いマッピングは1対1になっているのか。つまり化学物質と、脳の反応が一緒の場合だったら物質を同定できるのか。それとも全然違う匂いでも 同じ反応がでるのか。
鳥居構成員 現在嗅覚に関しては、嗅細胞と嗅球の途中にシナプスがないから、一対一対応で脳に入る。研究によれば、化学物質のうち、ベンゼン核だけとらえるレセ プタや、側鎖の部分だけとらえるものがあり、脳の中で化学物質の構造を再構成して認識しているという。味覚では、脳ではわずかな化学物質の濃度の違いを認識して再構成している。我 々が通常実験室の分析で1日はかかるものを、体内ではものすごい勢いで分析しており、いかに我々の体はすごい処理をしているかということが分かる。
阿部構成員 嗅覚も味覚も、情報処理には記憶が関係している。即ち、~の味だと分かることは、学習して脳が記憶しているということ。このことが仕組みを非常に複雑にしている。個々の神経だけを見た場合は興奮のモードは同じだが、どの神経がどういうパターンになったときにどういう味や匂いがするのかは違う。ただし、具体的にはまだ分かっていない。それに加え、複雑な記憶が関わっていくのだと思う。
廣瀬座長 見ただけで味が感じられると言うことはあるのか。
鳥居構成員 食べ物や風景の映像を見ているときには味覚や嗅覚を感じることもあるかもしれない。いずれにしても個々の感覚だけをバラバラに取り出すよりも総合的に見ないと分からなくなってしまうような気がする。
廣瀬座長 味覚や嗅覚のこういう部分なら伝えられるというのが分かれば、それだけを伝えるという方向での可能性もあると思う。
鳥居構成員 人間が自分で感じているものそのものが五感。いい加減なものではおもちゃみたいになってしまい、マーケットニーズはないのではないか。普通のテレビよりもHDTVのほうが良いというのは画像が綺麗だからである。白黒からHDTVまで進化する過程を他の感覚にも持ち込まないといけないと思う。
廣瀬座長 最初のテレビやCTのテクノロジの映像は未熟なものであった。もちろん それらが本質的な部分を伝えているとは思わないが。
小宮構成員 ビジネスへのフィードバックがないと実用的にならないと思う。ビジネスの立場からは時間軸の観点が重要。100年後に何ができるかという話だけでなく、5年後にはどれくらいのことができそうかという話も考えるべき。その上でニーズのあるものは投資をして活発に行っていくこともできる。
土井構成員 ワープロの開発の際、まず辞書を作るということから行った。感覚についても電気的な信号だけではだめだという話があったが、辞書的なもの即ちデータ ベース的なものが必要なのではないか。どの部分に位置づけられるか分からないが、 どこかにデータベースのの観点があると、フレームワークとしては良いのではないか。
平原構成員 実用化段階に音声認識があるが、決してまだ実用化段階と言ってよいものではないと思う。TMS(transcranial magnetic stimulation)の小型版があって、味蕾(みらい)や嗅球(きゅうきゅう)を、直接刺激することができれば、匂いや味の記憶を呼び起こすことは可能なのだろうか。
鳥居構成員 できるとは思うが、思ったような情報になるだろうか。味神経の場合は、 つながっている神経は一本ではなくバンドルされており、流れている情報はバラバラに流れているため、特定の所を刺激するということがなかなかできない。まとまって 刺激してしまうとノイズだけになってしまう。
平原構成員 人工内耳みたいに聴神経の束に割と荒っぽい刺激を与えてもその後の訓練で分かるようになることもあるので、可能なのではないかと思う。
阿部構成員 難しい条件を抜きにして考えれば、最終的にはできると考える。この分野研究は随分進んでいて、嗅覚ならある程度同じような化合物なら同じような分野が刺激されることが分かっている。最終的に脳を刺激するマップ、つまり味覚地図、嗅覚地図ができれば、どのような方法で刺激するかは問題になるが最終的にはできると思う。ただ、現在どこをどうすればどうなるということがまだ分かっていない。味覚の場合、最終的な入力が分かれば、味覚をコントロールもできると思う。
森泉構成員 本研究会では、神経細胞に直接作用するような通信を目指すのか。それとも侵襲・非侵襲という意味でもっと人に優しい方向を目指すのか。
廣瀬座長 それは議論の中で決めていくことだと思う。そう言うのも含めて議論していけばよいと思う。ただ、侵襲型というのはすぐさま実現するという訳にはいかないのではないか。味覚、嗅覚は適切な技術がないとすれば可能性もあるかもしれない。電極を刺すからにはすごく良いことがなければいけないと考えるが、例えば味盲な方に治療目的でということは考えられ得る。
鳥居構成員 ペースメーカを埋めるということは昔では考えられなかったことだが現在は比較的簡単に行われている。テクノロジーの進展はニーズがないとできない。 知らないことが何であるのかが分かれば限界がみえるので、限界の中で限られた期間で何をやるのかという順序にすべき。仕組みが分からないと分からないこともある。
例えば視覚の場合も、仕組みの解明が行われてきたからこそ、そのアナロジーで技術が進展した。味覚・嗅覚の場合は、研究者は脳にかかりっきりになっていて、結果的 には分野ごとに分かれて総合的な科学として考える場所がなかった。それぞれ専門の違う人が理解してアドバイスを受けながらやっていかないと独りよがりな世界になってしまう。そういう意味ではこの研究会は良い機会だと思う。
廣瀬座長 感覚毎にレベルが違った議論になると思うが、自由に議論を進めていきたいと思う。
⑥ 今後の審議実施スケジュール事務局より、資料2-4に基づき説明。資料に沿ったスケジュールで進めていくこととした。
⑦ その他 次回会合の日程は別途調整し、詳細については後日連絡することとした。 以上
http://www.soumu.go.jp/joho_tsusin/policyreports/chousa/gokan/001211_1.html
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